木村忠正『デジタルデバイドと日本社会』(2005) ※論文

NHK放送文化研究所が出している「放送メディア研究」所収の論文。
具体的には2005年の第3号、pp.9-56に掲載されている。
著者は早稲田大学理工学部教授(1964年生まれ)、
専門は情報ネットワーク論、情報化社会論となっている。

デジタルデバイトという言葉が持つ複層的な意味を、
米国・北欧・韓国を事例に挙げてそれぞれの文脈から解説している。

・ポスト高度消費社会(北欧型)…リスクを社会全体で共有
・ハイパー高度消費社会(米国型)…リスクを個人に帰責させる
・第三の産業分水嶺

など著者独自の概念・用語がいくつか出てくる点で興味深い。
文章はデータを挿入しながら書かれており、
理工系でありながら社会システム論に興味を持つ著者の視点が
反映されているといえる。
ただしかし、やはり社会文化的な考察には欠ける点は否定できず、
カルチュラル・スタディーズ的な記述は皆無である。
それゆえまさに「情報化社会論」の論文として認識することが必要。

それでもデジタルデバイドが意味すること・ものが様々に異なる、
例えば日本社会であればPC利用者(PC+携帯含む)と携帯のみ利用者間で
情報リテラシーのデバイドがあるという指摘はなるほどと思わせる。
(著者はその背景・原因に教育格差があるとする)

ただしこの論文は2005年に書かれたものである。
著者のいう高校卒業者=携帯のみ利用が多い=情報リテラシーが課題、
という論理はスマートフォン全盛時代になりつつある昨今、
どこまで議論として成り立つかという疑問が残る。

これぞまさに最先端を研究する者にとって避けては通れない、
研究テーマそのものが陳腐化してしまうというハードルであろう。
(自分も要注意だ。いつまでもテレビに拘るべきではない)